横浜地方裁判所 昭和28年(人)1号 判決
請求者 桃井[金圭]次
拘束者 横浜市神奈川警察署長
一、主 文
被拘束者を釈放する。
本件手続費用は拘束者の負担とする。
二、事 実
請求者は主文同旨の判決を求め、請求の理由として、
(一) 被拘束者は昭和二十八年三月十四日(但し勾留の請求日は同月十三日)に被疑事実を「被疑者(被拘束者)は昭和二十七年十一月十四日午後六時四十五分頃より同日午後七時五分までの間に横浜市港北区篠原町七五〇番地武相学園内本館昇降口で、市内神奈川区西寺尾町九八二番地小林富夫所有の中古自転車一台時価五、〇〇〇円相当を窃取した」とする窃盗被疑事件につき、横浜家庭裁判所裁判官木崎正孝が発布した勾留状に基いて代用監獄である横浜市神奈川警察署に勾留された。その後三月二十日に至り被拘束者は神奈川簡易裁判所に賍物故買の罪名で「被告人(被拘束者)は昭和二十七年十二月中旬頃横浜市神奈川区所在国電新子安駅附近の路上で、大庭某から賍物であることを知りながら中古自転車一台価格五、〇〇〇円相当を代金二五〇円で買受けて賍物の故買をした」旨の公訴事実により公訴を提起されたが右起訴状に勾留中と記載されただけで、前記勾留状の外には新しい勾留状を発布されることなく神奈川警察署に拘束されている。
(二) 被拘束者に対する前記勾留状の被疑事実と、起訴状の公訴事実は行為の日時場所も異る上に罪名も異つていて両者間には事実の同一性がなく、従つて被疑事実については公訴の提起がなかつたことになり、前記勾留状の効力は刑事訴訟法第二百八条により勾留請求の日から十日の期間が経過すると同時に消滅したので、それ以後の拘束は不法であるから被拘束者の釈放を求める。
と述べ、拘束者の主張中被害物件である自転車が同一のものであることを認めた。<立証省略>
拘束者は、「請求者の請求を棄却する。被拘束者を拘束者に引渡す。」との判決を求め拘束の理由として、請求の理由中(一)の事実は認めるが起訴状の公訴事実中、被拘束者が「賍物であることを知りながら買受けた」という自転車は勾留状の被疑事実において小林富夫が武相学園内で盗難に遭つたものと同一であり、被疑事実と公訴事実との間には同一性があるから、右勾留状による勾留は公訴提起後も刑事訴訟法第六十条第二項に定められた期間中存続することになり、この勾留状に基ずく被拘束者に対する拘束は適法であると述べた。<立証省略>
三、理 由
請求の理由(一)の事実は当事者間に争いのないところなので前記勾留状の被疑事実と起訴状の公訴事実との間の同一性の有無について考察する。元来犯罪事実は犯罪の日時場所態様のような附属的なものや罪名が異つていても基本的事実関係が同一であると認められる場合には同一性を失わないけれども、それ等の相違の程度が自ら同一性の存否に影響するのは当然である。本件の場合において、犯罪の目的物である自転車が同一であることは当事者間に争いのないところで、このことは事実の同一性を保たしめるためには一つの有力な要素であるけれども、一方その日時において一月の間隔があり、場所にも相当の距離があるばかりでなく犯罪の態様もまた異つているので、これ等の点を合せて考えると到底事実の同一性があるとはいえない。それ故請求の理由(二)に記載したとおり被拘束者に対し昭和二十八年三月十四日(勾留請求の日は三月十三日)の勾留状による勾留は勾留請求の日から十日の期間の経過と同時に当然失効し、以後の拘束は不法なものになつたのである。この場合勾留はすでに失効しているので刑事訴訟法上の勾留の取消の請求により救済を求めることはできないし、他に救済の目的を達するのに適当な手段はない。
よつて請求者の本件請求は理由があるから手続費用について人身保護法第十七条民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 牧野威夫 岡村治信 太田夏生)